大長編アクションもの
わたしは車内が妙に豪華な小田急線に乗っている。リクライニングのふかふかした椅子やソファーばかりがあって、わたしがリクライニングばかりある車両でそれに座ろうとすると、老人ホームの一群が乗り込んできて、介護人が老人をひとりひとりリクライニングに拘束してギャグボールを噛ませていた。老人たちはうめいて、唾液をたらしていたので、わたしが車両を移って背の低いソファーにしがみついた。この電車は内装が豪華なくせにすごく揺れたから、だから老人は拘束されたのだと思い当たった。見た目の上品な親子や、エルビス・プレスリーも乗っていて、緊張していると、エルビスはなぜかうちに宿泊するという。エルビスには日本語がばっちり通じたが、わたしは気を利かせたつもりで「わたしはあなたを尊敬しています」と言うつもりで「I expect you」と言った。でも起きて思う、「respect」と間違えてる。
家の中に、きれいな蛾がたくさんいる。装飾的だ。桜貝のような一匹は、毛糸が両面テープで貼り付けられていた。プラスチックのような感触がする蛾だった。尻尾の毛にパーマがかけられた赤いネズミもいた。わたしはエルビスにわかるように、「mouse!mouse!」と叫びながらネズミを捕まえて、尻尾をぐるぐる振り回して気絶さした。かわいそうだから殺さず逃がした。こういった人の手の入ったきれいな生き物が家の中にいるというのはなにかの陰謀だと思って不安だった。
(現実にも)わたしの家には父親が好きでエルビスのブロマイドやポスターが貼ってあるのにそれがなくなっていてへんな女の切り抜きになったりしていたのは、母がかえって恥ずかしいだろうとエルビスに気を利かせたつもりらしい。その日わたしもエルビスも足がのびたり縮んだりしていて大変だった。わたしがエルビスより背が高くなったりしていた。エルビスはそれをちょっと気にしていたが、にこやかに帰った。もう声が出ないらしく、歌ってはくれなかった。
学校へゆくと試験。スパイのやり方、国家の崩し方の筆記試験で、答えは窓からみえるビルの広告に書いてあった。その試験が準拠したといううさんくさい本の著者というのが、試験が終わると出てきて、うさんくさい、球体に太ったそのおっさんに、強姦された。あまつさえ、ねばちこいあれをかけられた。走って逃げると、おっさんの姿は消えていて、(実在の)あみちゃんという、ハーフみたいな顔の女の子と帰った。校舎の様子は割と現実に忠実だった。途中、ガラス細工のような、赤と緑の透き通った羽をした蝶がじっととまっていたから写真をとろうとしたがうまくとれない。つかまえて帰ろうとしたら逃げて、無理やり掴んだらぐちゃぐちゃになってしまってとても悲しかった。
翌日、一限は空きで、わたしは古文の勉強ばかりしていた。自習中に、昨日の球体が追いかけてきて、あれを一キロの米の袋いっぱいにためたのをどばとかけてきて鬱陶しい。すごく鬱陶しい。捕まえてぼかぼか蹴りながら職員室へつれていってロープでぐるぐる巻きにして、先生にお願いする。も、気が付くと、先生たちは全員部活動の報告掲示板をみてあれこれ言っている。職員室へゆくとだれひとり見張っていなくて、球体は窓から逃げていた。先生に怒ると、女の先生が「あら、ごめんなさいね、忙しかったのよ」などといったりしたので、こいつらグルだな、味方はないな、と思う。
二限からの試験は国語演習といって受験用の古文や現代文の勉強をする教科の試験だった。わたしはなにもしていないので必死でともだちに何かひとつでも教えてもらおうとするも、みんな曖昧に誤魔化して教えてくれない。後ろの男の子に、席いっこずれてるよ、そこは俺だよ、と教えられて移動したらわたしの席がない。試験監督をしている、横幅の広い昔の担任の先生に一生懸命きくも、座席表をもっていない、とか言われる。
なぜかそうこうするうちに、教室が劇場のような広さになっていて、席がたくさんになって、わたしはいっそう自分の席がわからなくなる。早くしないと試験が始まってしまう。とりあえず適当に荷物をおいて、先生にまた席をききにゆく。今度は座席表を持っているのに、教えてくれない。どうやら席はわたしが荷物を置いた場所で合ってるようなのだが、そこに戻ると男の子たちの一群が騒いでいて座れない。
仕方がないから荷物も放って、どんどん教室のうしろへ歩いてゆくと、男の子たちが「ワッツーシゾンビワッツーシゾンビ!」と騒いでいた。
君らはそういうの聴くのか。と思いながら歩き進むと、ショッピングセンターがあって、風船を膨らましてつくった巨大な門があって、ディズニーランドに繋がっている。
気付いた生徒たちが、試験会場からわーっとこちらへ走ってくると、その姿はみんな黒いミッキーのマークの形をした粒子になってしまう。その波にわたしは打ち倒される。気が付くと、ディズニーランドが大好きな、クラスの、目元の涼しい女の子といる。彼女ははしゃいでいた。
門の向こう側は、普通に外と繋がっているらしく、そこから、もう試験が終わったうちの学校の生徒たちが、やっぱり黒いミッキーの粒子になってわーっと押し寄せる。嵐のようだった。
次々生徒の群れが粒子になって飛んでくるので、わたしとともだちとは逃げ回った。わたしはすごく早く走れた。人が増えると暴動が起こり、また粒子が嵐のように吹き荒れる。
と、その混乱の中で、風船でできた門に火がついて、中のガスを燃やしながらゆっくり倒れ出した。粒子の生徒たちはうかれていて気が付かない。わたしはともだちと走って逃げて、床にしばらく伏せた。
炎がわたしたちを舐め、わたしは手に火傷した。ともだちはふるえていて、わたしはそれを懸命に慰めた。生徒がたくさん死んだらしい。大事故だ。大惨事だ。わたしの手は、火傷して、アトピーが酷かったころのような赤剥けになっていて、蓮コラのように大きな毛穴がいっぱいぶつぶつあいていた。