『別れた彼女がまた別れたと友人に聞いたのは随分前の話だ』

nonnamiくんは本名をhと言って、わたしたちはひと夏の間だったが随分仲が良かった。
わたしたちはそのころお互いにウィルコムを持っていて、受験勉強をしている時間以外は殆ど電話していた。
彼は大阪にいて、わたしは東京にいた。受験が終わったら会いにゆくよ、とわたしは約束していた。
hはいつも自分を持て余していた。精神科へ行って、薬をたくさん飲んでいた。刃物を持って暴れて入院したこともあった。
夏が終わってhは失踪した。自分の部屋にいつも用意していたロープを持って、携帯電話も財布もなにもかも置いて。

10代最後の夏も終わりの8月31日、私はクーラーの壊れた四畳半の部屋で汗みずくになっていた。それも去年のことだ。
大切なことはすべて忘れてしまっている気がする、小さな言葉、優しい言葉をすべて。
もうあの鉄階段をあのような気持ちでのぼることはないだろう。何度となくそう思ったが、今度はどうなるだろうか。