一年後の世界

高校時代付き合いのあったひとが自殺した。その知り合いに瓜二つの、その弟のピアノを、汚れた人工の波打ち際に聴きにゆく。コンクリートに仕切られた人工の海には不格好なヒトデしかいない。その一匹をわたしは捕まえて、nに見せびらかした。ほら。あんたこれ触れる?不潔な黄色をしたヒトデは星型ではなく八つくらいに分かれていてその分かれかたも歪だ。空が重く覆い被さるように曇っている。
客席は少ないが観客は横幅100メートルの海辺にいっぱいだ。自殺者の弟にみんなが拍手喝采している。ピアノの上にsが乗っていて弦をいじるので、演奏はうまくいっていなかったが、誰ひとりとしてそれに気がついていない。長い髪をピンク色に染めたmと会場を出て帰る。表は秋晴れで、黄色い光に包まれている。懐かしい成城のイチョウ並木だ。コインパーキングがあった場所は更地になっている。