暗い空を見上げながら歩いていたら、赤っぽい星がすうっと消えるのを見た。ある人が言うには、「きっと星が死んだんだよ」。星の光は遠い。わたしの眼球に届くまでどれだけの時間を経ているのか。その星が死んだのはわたしが生まれるよりか前のことかもしれない。わたしの生まれるより前に死んだ星が死ぬ瞬間を、今こうして生きているわたしが見ることの不思議さ。わたしはその光が地球へ届くまでの長い長い時間に放り出されるような気持ちがした。もしかしたら単にあれは飛行機だったのかもしれないし、UFOだったかもしれない、だけど本当に星の死ぬ瞬間だったらいい。
たぶん、今夜は正真正銘の満月だ。昨日の夜も月は丸かったけれど、今夜ほど美しい円は描いていなかった。月は地球に近いから、きっと消える時も、その光は地球から割とリアルタイムに見ることが出来るだろう。月のばくはつの前は、満月の夜が続いて、月は日ごとに大きくなってゆき、空が月でいっぱいになり真っ白になる。そして月は、地球にまで聞こえる音を立てて破裂する。月がだいばくはつを起こしたらわたしたちはきっと全員死んでしまうだろう。月の表面にはきっときらきらした粉がたっぷりつもっていて、それが地球に降り注いで、その粉はとても冷たいから、それを肺に吸い込んだ瞬間人間はみんな死んでしまう。きらきらと光る粉がきれいだな、と思いながら、きれいなまま、みんなその瞬間で死んでゆく。
だから、大丈夫。