十代の悪魔

ひとがたくさんはいるそのライブハウスは、普段みにゆくようなところより高いステージがあって、わたしはフロアから自然とそれを見上げるかたちとなった。わたしのあげた上等のジャケットを着て、さいきん売れているバンドのひとたちと、そのひとはステージに立っていた。見上げる姿勢はあまりにも憧れているようで、ちょっと涙が出てしまった。ライブハウスで泣くひとは醜い。
だけれど、あまりに美しい夜が、そこにはあった。
(美しい、なんて、そのひとのため以外にはなかなか使わない言葉だ。恥ずかしくて、使えない言葉だ。)
いつかはわたしもひとに、美しい、と思われたい。だから、18のあいだにステージに立つ。
人影も殆んど無い、深夜と早朝の間の街をすこし歩いて、わたしは無理矢理に手を繋いだ。
慎重に避けようとしてきた惰性や慣れがそこにあることに、気が付いた。
ライブ前に会っていたひとは、全身に熱い電磁波のようなものを発しながらわたしに触れていた。
セックス、したことないんだろうな。
慣れても終わらない恋はある。実らない恋だ。わたしは一生憧れる。時々は忘れながら、それでも一生憧れる。
別れ際、体を引き寄せられて、首筋にキスをされた。触れたものは濡れて冷たくて、舌だったのか唇だったのか、わからなかった。