痩せっぽっちのロック

好きな子に会うときは、太って大きくなってしまった胸を、痩せていた頃の小さな下着に押し込める。わたしは好きな子の前では、痩せっぽっちで予定調和に倦んでいた、16才のままでいたい。
だから、21才以上がもらえる煙草のサンプルを吸っていたら、「君21才過ぎていたんだ。17才くらいかと思ってた」と、世辞だろうが言われたことは嬉しかった。23才だったあなたが今日だ30才近くなり、わたしは来週22才になる。水瓶座はひとに嫌われる、淫乱だし。
好きな子のことを考えて苦しんだり喜んだりしているときがいちばん幸せで、贈り物を選ぶのが楽しくて、誕生日の贈り物を四つもあげてしまった。わたしは好きな子のこと知っているから、喜ぶものあげられたと思う。馬鹿だけど。
正直今日のライブがよくなかったらみにゆくのはやめにしようと思ったけれど、今日のライブもよくて、会いに行くんじゃない、これからもライブをみにゆくと思う。
彼の彼女みたいなひとのこともとても好きだし、わたしはたぶんもう寝ない。本当はだれもみていないところでひとつくらいキスでもしたかった、終電まで残って帰れないふりしたかった、帰り道発作を起こしてしまったときは、助けて欲しいと言おうかと思った、セックスはさいきんあまりする気になれない、すこし抱きしめてキスしてほしい、風呂のない狭くて寒いアパートで身を寄せ合って眠って、昼には食事をつくる胴長で猫背の背中の、長くてきれいな背骨をながめたい、そう思うわたしは、醜い。こんな醜い身体で願うことが、本当に、醜い。
季節は過ぎた。わたしはひとりになった。結婚もしなかったし、寝た男はそろそろ二十人になる。そのうち一人は死んで、四人が結婚した。寂しさが滲んだのか、野暮ったい二つ結びに古着の汚らしいセーターを着てくわえ煙草だというのに、歌舞伎町の帰り道はホストのキャッチにたくさん遭った。出会い喫茶のキャッチには、本当についていってしまおうかと思ったよ。ひとつのキスもしたかった。わたしは自分の身体をもっと醜く汚くしなければ、もっと無価値にしなければ、そういう幻影からはいつまでも逃れられないだろう。それ以外に逃れる方法があるとしたら、誰か、教えてくれよ。
しかしまぁ、あの、小さな小汚い小屋でエレキギターにビニール傘を突っ込んでいた、わたしの好きな子が、その頃わたしがキラキラした目でいっぱいのライブハウスでみつめていたバンドと共演したのは、けっこう嬉しかったよ。17才のころ好きだったバンド。
ねぇ、絶対幸せになってよ。お誕生日おめでとう。ずっと生き延びてよ。それが僕の勇気になる。