「私は私を入れるような倶楽部には入りたくない」

髪を黒く染めた。自分の映っているのやそのほか大学生の作った映画をいくつかみて、画面に映るならば断然黒髪、それ以外にないと確信して黒く染めた。何せ表情が美しい。返す光、落とす影の美しさ。光にも青く透けるよな、真っ黒い髪でいたかったけれどそこはいったん茶髪にした哀しさで、日の下に立つと返す光が赤く濁る。日に日に茶色くなってゆく。
わたしに顔のつくりの美しさはないから、それ以外の表情で補うほか、スクリーンに映ることへ立ち向かう方法がない。短髪にした17才の感傷を先端にたっぷり含んで、髪が伸びる。もうじき肩より下まで伸びる。赤いズボンの裾をひきずり、坂本慎太郎気取りで歩いたりできる恥ずかしさも、もうすこししたらなくすんでしょう。もう身を守る術として、奇を衒うことしか残されていない、草食男子から、キャンキャン女子から。頑なになるつもりはないけれど、迎合だってするまいよ。自分はマイノリティだと思っているやつがある一定の割合市民権を得て存在している環境で、もう自分に道はない。結局構図は変わらない。ずっとこうだ。
「みんな高校時代   と仲良くしたがってたんだよ、でも   は拒んでた感じもあったし」と数少ない友達にさいきん言われた。わたしはかつて頑なだった。お前らがわたしを「変わったやつ」というポジションに追いやって虐げるなら、わたしもお前たちを軽蔑してやる、健やかな体を、制服から伸びる美しい足を、シャツの上からわかる肩甲骨の硬さも、そう思っていた。憎んでいた。なにも憎むことはなかったんだろう。あの、マッシュルームカットのお洒落男子も、クラスで馬鹿騒ぎしていた体育会系男子も、ギャルになりきれていなかった女の子もみんな、わたしと仲良くしたかったと、聞いた。毎日会わない今ならば、美味しく飲み食いもできるだろう。だけれど、迎合するまい、迎合したらどうせ幻滅されて終わりだ、だから決して迎合するまい。皆さんの想像の中の、エキセントリックな立場の私を殺してしまうまい。だいたい、そういう場所に置かれがちなのだから。そんなことはないのにね。期待されてしまうことこそ一番こわい。