真夜中のテレビに木村カエラが映っていて、そういえば小学校の保健室の先生は若くてかわいくて木村カエラに似ていたな、と思いだす。わたしが小学1年生のときに新任だった先生は、このあいだ会いに行った時もまったく変わらず若くて笑顔の目尻と口元が木村カエラに似ていた。
ひとり真夜中にラーメンをたべる、かなしい。さいきんは不覚にも読売新聞のCMや内田春菊の「南くんの恋人」や大島弓子の漫画などみては泣く。それから自分はフォークソングに弱い。炒り卵をつくる前に、卵をボウルにふたつ割りいれたのを、その色がきれいだったので撮った写真をみただけでも泣く。卵はとてもさみしい。たべものとカタルシスだけがわたしを救う。
あちこちで沈丁花のにおいがしていて、どうかひとえだほしいと思うのだけどそれらは人家のものなので手折るわけにもゆかず、ひとり歩いて帰る夜何度もひとの家の沈丁花をみて回るもやはり忍びなく折れないでいるうち、白い沈丁花まで満開になってしまった。赤い沈丁花と白い沈丁花のうちでは白い方が花の咲くのが遅いのだ。
空気のつめたい夜は沈丁花の甘い匂いがいっそうしみいるようだ。だから夜眠る枕のもとにひとえだ沈丁花をさしてねむりたい。まだ咲ききらない赤い沈丁花のひとえだがほしい。人の血のすこし乾いたときのようないろした肉厚のあの花はすこしグロテスクでさえあって、つよいにおいにふさわしい。静かな夜にあのひとえだがほしい。
だれかどうか沈丁花ひとえだわたしにください、どうか。