幻想の不思議少年


レバ刺しを食べて39度の熱を出した。すわインフルエンザかと診察を受けたところ胃腸炎だと言われた。「今日まで10日くらいの間に、何かナマモノ食べたりしましたか?」「あ、レバ刺しを」「レバ刺しなんかもう食べない方がいいですよ、ほぼ100%汚染されてますからね」しばらくお粥ばかり食べていたら治った。
話として、レバ刺しを犯人にすることはわかりやすくていいけれど、実際のところレバ刺しばかりが原因ではないのじゃないかと私は思う。


バイト先に、中学生の頃同じクラスだった男の子が来た。
彼はかつて、ヒョロっと背が高くて、ギョロ目で、話すと声が裏返り、どこか飄々と得体の知れない男の子だった。
教室で「黒魔術」とつくタイトルの布張りの古い本を読んでいる彼をみて、当時私は彼を心底気味悪いと思っていた。
喫煙かなにかで彼は中学を退学になって、別の高校へ進み、高校一年の頃一度レディオヘッドのCDを貸したがそれからあとに会うことはなかった。
そのあと私は澁澤龍彦を好きになって、そういえば、彼はもしかして中学のころ澁澤を読んでいたのじゃないだろうか、と思った。
もしかそうだとしたら何故もっと仲良くしなかったのだろう、と私は思ったし、その真偽は会わないなりにけっこう気になっていた。
その彼が来た。
久々に会った彼は、昔は気味悪く見えた顔のパーツの造作の大きさも、眼鏡やら何やらでうまいことやってまるで垢抜けた顔立ちに見せていた。
ずっと気になっていた「黒魔術」の本の話をきくと、「澁澤?わかんないな」と言われた。
普通の男の子だった。
レディオヘッドのCD返してよ、と言うのは忘れた。