すすす

このくそ暑いというのにブーツを履いている女性が街にはいる。特に奇抜な、場違いな印象を与えるでもなくごく自然に、かといってたくさんいるという訳でもなく、ぽつぽつとみかけられる。渋谷には、ファー付きのものを履いているひともいた。
そういうひとを見掛ける度に、以前、「冬場、ストーブの前で、同居する女が丁寧にペディキュアをしてから、タイツを履き、ブーツで出掛けてゆくのを見て、男はその浮気に勘づく」というのを思いついて、fへ語ると、「男はそこまで気が付かないよ。」と否定されてしまったのが思い出される。ほんとうだろうか、ほんとうに男性は気が付かないんだろうか。夏場ブーツを履いている女のひとはその日それを脱ぐつもりがないんだろうか。それとも行きと帰りぐらいしか履かないからこそのブーツなんだろうか。
にしたって、冬場にペディキュアを塗っている女が必ずセックスに備えているのかといったらそうではないんだろうけれど、不吉な予感としてはけっこう鮮烈で、秀逸なイメージだと思う、慎重に丁寧に、足の爪に色を塗る女性が小さなマニキュア液の刷毛をつまんでいる、つめたい指先というのは。